医療と美容をつなぐプロダクトを生み出すencyclo代表・水田悠子さんに、こだわりのライフスタイルや大切にしていることなど、リンパ浮腫と共に生きるありのままの自分について語っていただきました。
enStylers:リンパ浮腫とともに、自分らしくstyleをもって生きるひとたち
アクティブ派の20代が、突然「患者」に
encyclo Style 編集部(以下、編集部)
今日は水田さんに、ご自身のことやリンパ浮腫との向き合い方についてうかがってみたいと思います。水田さんは29才のときに子宮頸がんにかかり、その手術の後遺症でリンパ浮腫を発症されたそうですが、20代のころはどんな生活を送られていたのですか?
水田悠子(以下、水田)
私は、学生時代からファッションやコスメが大好きでした。きっかけは中学生のとき、お小遣いを奮発して、人気ブランドのビューラーを買ったこと。まつ毛をカールしただけで、目がぱっちりして、すごくかわいくなった気がしたんです(笑)。
ビューティーの力を借りれば、誰でもなりたい自分になれるし、自信がついて積極的になれるはず!私は人がキレイになって喜んでいる姿を見るのも大好きでしたから、そんな仕事に携わりたいと思うようになりました。大学卒業後、念願の化粧品会社に入社し、4年目からは商品企画部に配属されました。キレイを生み出す側になれた喜びと使命感で、忙しいながらもとても充実した毎日送っていました。
編集部
やりがいを感じていらしたのですね。そのころは、仕事一筋だったのですか?
水田
仕事も遊びも全力投球でした。友達と出かけるのが大好きなアクティブ派で、仕事以外のプライベートもとても充実していました。
がんになる直前まで、会社の同僚3人でルームシェアをしていたのですが、休日になると、地方に赴任している友人を訪ねて、3人でよく旅行していました。札幌、名古屋、四国、博多、ロサンゼルス…。観光するというより、地元の人しか行かないようなところに行くのが好きで、地方の美味しいものを食べ歩くのも楽しみの一つでした。
ちょうどそのころ、会社でも、大きな仕事を任されるようになって、毎日ヘトヘトになりながらも、「これからもっと楽しい人生を切り拓いていくぞ!」と意気込んでいたんです。
編集部
笑顔あふれる水田さんの姿が想像できます。そんな充実した日々のなか、がん、そしてリンパ浮腫になってしまったことを、水田さんはどのように受け止められたのですか?
水田
がんについては、とにかく目の前の治療に必死に向き合っていましたが、リンパ浮腫は分からないことだらけで。
子宮頸がんの手術から2か月後には、左脚の鼠経部あたりに違和感が現れました。「これがリンパ浮腫!?」と、真っ青になって病院を受診し、そこで、弱い着圧の弾性ストッキングを勧められたり、いろいろなケアを試しました。症状はいったん収まったものの、数か月すると、また左脚の鼠径部が重だるくなってきて-。
このころから、リンパ浮腫との付き合いが始まったのですが、このままどんどん悪化してしまうのか、今何をやることが最善なのか、など不安でいっぱいでした。
編集部
「リンパ浮腫」について、どのようなイメージを持っていましたか?
水田
なる前は、「なったら終わり。だから、絶対になりたくない!」と思っていました。なので、わずかな異変にもドキドキして、違和感を感じるとすぐに受診するなど、かなりナーバスになっていたように思います。
発症してからも、初期のころは、「積極的に努力したら、悪くなるのを防げるはず」と信じて、少しでも改善の可能性があることは何でも試していました。
私には「がんを早期発見できなかった」という後悔があります。だからこそ「リンパ浮腫は早く手を打って、悪化させたくない」「できることは全部したい」という思いが強かったのだと思います。
時間と周囲の支えでようやく、受け止められるように … …
編集部
リンパ浮腫ときちんと向き合えるようになったのはいつごろからですか?
水田
いまの時代はいろいろな情報が簡単に手に入ります。私も最初は、不確かな情報やネガティブなクチコミに惑わされることもありました。でも、がんになった友達同士で情報交換したり、自分でインターネットで調べたり、正しい知識が身についてくると、冷静に自分の症状と照らし合わせることができるようになり、向き合い方も変わってきました。
そして私の場合は、最初に通った治療院の影響も大きかったように思います。悪化しないためのケアを期待して通い始めたのですが、そこでまず、「正しく理解して、ケアを続けることの大切さ」を教わりました。進行させないために、弾性ストッキングを履き続けなければいけないということも学び、「よし、頑張るぞ!」と思ったものの、実物を見たら、今まで普通に履いていたストッキングとの違いがとてもショックで…。ほかに悪化させない方法はないか、懸命に探しました。
編集部
水田さんはLVA(リンパ管静脈吻合術)の手術もされていますが、これも「できることは何でもしたい」という思いからだったのですね。
水田
そうです。手術を受けるまでは、「もしかしたら」と、劇的によくなることを期待している自分もいました。でも、先生から、「たとえ手術をしたとしても、リンパ浮腫とは一生付き合っていかなければいけない」ということを何度も説明され、覚悟を決めました。
私はこれまで計3回、LVAを受けていますが、自分の選択には満足しています。
とくに、1回目の手術のあとは、職場復帰も決まっていたので、「いまできる最善のことはした」という気持ちで、一歩を踏み出すことができたように思います。
編集部
いろいろ不安もあったと思いますが、職場復帰はうまくいったのですか?
水田
1年ぶりとなる社会生活は不安だらけでした。そんな私を察してか、復帰前、元ルームメイトたちが、石垣島旅行を提案してくれたんです。手術後初めての飛行機、海、弾性ストッキング、リゾートファッション…。リンパ浮腫1年生の私にとって、旅先で心配の種は尽きませんでしたが、「信頼できる友人が一緒なら!」と思い切ってトライしてみました。
実は人前で弾性ストッキングを見られるのは初めてだったので、心の中では「どうやって説明しよう」「引かれたらどうしよう」とずっと考えていました。
夜、弾性ストッキングを手洗いし、タオルで水気をとっていると、友人たちがドライヤーを手にやって来て、一緒に乾かしてくれたんです。否定したり、同情したりすることなく、「こんな分厚いの、明日までに乾くの??」って、笑いに変えてくれて(笑)。こうした理解者がそばにいてくれたことは、本当に心強かったです。
大きなチャレンジだった石垣島旅行。友人の理解で、心からの笑顔に。
編集部
リンパ浮腫に対する思いも、少しずつ変わっていったのでしょうか?
水田
はじめは、頭の中のほとんどはがんのことや脚のことが占めていて「脚のためにこんなにやることがあるのなら、職場復帰なんてできない!」とさえ思っていました。そのとき、主治医の先生から、「普通の生活をしながらケアするにはどうすればよいかを考えればいいのよ」と言われ、気持ちが楽になったのを覚えています。それからは、必ずやること、やらなくてよいことを決めて、自分を追い詰めないようにしています。
たまに手を抜いてしまうこともありますが、少し悪くなると、反省してまたきちんとケアして。そうするうちに、気づいたらリンパ浮腫とうまく付き合えるようになっていました。
「治らないことは絶望じゃない」「元に戻ることはできないけれど、自分次第で楽しく生きることはできるんだ」って-。「一生付き合う慢性疾患」の意味が、何年もかかって、ようやく理解できた気がします。
編集部
前向きに受け入れることで、行動の範囲も広がっていったのではないでしょうか?
水田
自分なりに工夫したり、トライ&エラーを繰り返すうちに、「ここまでなら大丈夫」という感覚が分かってきたんです。大好きだった旅行やおしゃれにも、工夫しながらチャレンジするようになりました。
もちろん、失敗もたくさんしていて、手術後初めての台湾旅行では、帰りの飛行機で少し気を抜いてしまったのか、帰国後、片脚が3~4㎝も太くなってしまったことがありました。 自分のなかでは、「うまく付き合えるようになった」と思っていただけに、かなりショックでしたが、思いつめたり、後悔しても息苦しくなってしまうだけなので、その後も無理なくできるケアを見つけて、リンパ浮腫との生活を過ごすように心がけています。
リンパ浮腫でも「楽しく快適に」を追求したい
編集部
こんなチャレンジをしてみたいということはありますか?
水田
そうですね。以前は、旅行に行っても、足湯や足つぼマッサージなどは避けて友達と別行動していたのですが、最近は、事前に情報を集めて、大丈夫そうだったらチャレンジすることもあります。リンパ浮腫になった当初は、「少しでも悪化したら終わり」と挑戦もせずに諦めてしまうことがたくさんありましたが、一時的に調子が悪い日があっても大丈夫なんだと思えるようになって、最近はできることが増えたような気がします。
でも、台湾旅行でのトラウマもあり、長時間飛行機に乗ることには、いまだに抵抗があります。片道10時間以上かかるアメリカやヨーロッパにもいずれ挑戦してみたいです。
編集部
水田さんが大好きというファッションやおしゃれについてはいかがですか?
水田
リンパ浮腫になってから、ファッションは激変しました。とくに足元のファッションに自信が持てなくなり、なるべく見えないようなものを着るようになりました。「履きたいもの」「着たいもの」ではなく、「履けるもの」「着られるもの」を選んでいると、自分らしさまで失われていくような気がして、とても悲しかったのですが、いまでは、好きなファッションにもチャレンジするようになりました。少し工夫するだけで、おしゃれを楽しむことができるんです。
コンパクトなトップスにハイウエストボトムスは定番のコーディネート。
編集部
水田さんおすすめのファッションコーディネートやアイテムを教えていただけますか?
水田
脚を気になるようになってから、ハイウエストのボトムスを選ぶ機会が増えました。むくみや弾性ストッキングでもたつきがちなお腹周りをすっきり見せられますし、ウエストにも食い込まず、とても楽です。重心が高くなるのでフラッシューズでも着こなしやすいです。ロングのボトムスのときは、トップスは首や腕が見えるもの、カットワークレース、ドルマンスリーブ、ショート丈など、すっきり見えるもの選ぶようにしています。
編集部
リンパ浮腫の方でなくても、素敵な組み合わせですね。脚周りも気になると思いますが、何か工夫をされていますか?
水田
シューズには、ドイツ製のインソールを入れています。これがあると、どんな靴でも歩きやすく、疲れにくいので、愛用しています。後ろ半分だけのタイプなので、どの靴にも入れられますし、入れてもきつくならないのもいいですね。
サンダルを履くときは、つま先の開いた弾性ストッキングを選びます。ストッキングの先をサンダルの前のストラップに合わせれば、素足のように見えるので、夏はおすすめです。
ペディキュアは濃いめを選べば、さらにストッキングが目立たない。
編集部
せっかくなので、ふだん家でどのようなケアをされているかについても教えていただけますか?お気に入りのセルフケアや習慣があればぜひ。
水田
わざわざ頑張るのではなく、何かをしながら、楽しくできる方法を見つけるようにしています。たとえば、むくみ予防のため、立っているときは屈伸やつま先立ちをして、筋肉を動かしているのですが、最近では信号待ちの間にも無意識に行っていて、友達に驚かれたりもします(笑)。また、駅などでは、エスカレーターでなく階段を使うようにしています。 蜂窩織炎の予防のために、保湿にも気を配っています。好きな香りのボディクリームをたっぷり使って保湿するので、ケアの時間というより、癒しの時間になっています。
編集部
今日は水田さんの素敵な生活をうかがうことができました。最後に、今後、リンパ浮腫を取り巻く環境がどうなってほしいか、夢があれば教えてください。
水田
リンパ浮腫になった当初は、この先一生いろんなことを諦めなくてはいけないと思ったこともありました。でも、時間とともに、向き合い方が少しづつ分かるようになってきました。時間と同じくらい大切だったのが、同じ悩みを話せるリンパ浮腫の友人や、ちょっと先を行く先輩です。リンパ浮腫8年生になった今、かつての自分のように悩みや不安を抱えている方たちに、何か少しでも力になれたらいいなと思います。そして私も、この先も他の方に学びながら、もっともっと楽しく快適に過ごせるように追求していきたいです。
初回はencyclo代表・水田悠子さんをご紹介いたしましたが、このコーナーでは年齢や経歴などを問わず、様々なリンパ浮腫の方にお話を聞かせていただく予定です。リンパ浮腫と共に美しく生きる人とライフスタイルにフォーカスしていきますので、お楽しみに! (編集部)
<写真・文:Emily Nagaoka>