今回は、リラさんをお招きしました。「過去を振り返ることは、自分自身を見つめ直す時間になるはず」と、貴重な体験を語ってくださいました。
enStylers:リンパ浮腫とともに、自分らしくstyleをもって生きるひとたち
自然を感じる生活を送るナチュラリスト
encyclo Style 編集部(以下、編集部)
第2回目となる今回は、リラさんをゲストにお迎えしました。笑顔が素敵なリラさんですが、がん、そして、リンパ浮腫の発症から現在に至るまで、さまざまな悩みや葛藤があったといいます。そんなリラさんが、リンパ浮腫とどのように向き合い、どのように「新しい自分」へと変わっていったのか、詳しくうかがっていきたいと思います。最初に、リラさんから、簡単な自己紹介をお願いできますか。
リラ
私は、婦人科がんの手術をしたことがきっかけで、リンパ浮腫を発症しました。昔から身体を動かすことが大好きで、休日はスポーツを楽しんだり、家族そろってトレッキングやサイクリングに出かけたりしていました。家が海のそばということもあり、海も大好きで、夏は短パン、ワンピース、ビーチサンダルが定番のスタイルでした。
小さい頃から慣れ親しんだ自然の風景。
編集部
アクティブに自然を感じながら生活されていたのですね。そんなリラさんが、初めて「リンパ浮腫かな」と思ったときのことを教えてください。
リラ
手術後半年くらいから、太ももの内側の皮膚の下の血管が見えにくくなってきました。長時間座っていると鼠経部に痛みを感じたり、荷物を膝の上に載せているとしびれたり、なんとなく違和感はあったのですが、太さは変わっていなかったので、そのまま様子を見ていました。そうしているうちに、1か月後には1㎝、また1㎝と、目で見てもはっきり分かるくらい、左脚だけが太くなってしまいました。
手術前、リンパ浮腫になるかもしれないという説明は受けていたので、覚悟はしていました。でも、実際に自分の脚が太くなっていくのを目の当たりにすると、ショックと後悔で押しつぶされそうでした。「このまま、どこまで太くなるんだろう?」とそればかり考えてしまって…。
私の大きな決断
編集部
そのときのショックは、計り知れないものがあったと思います。「後悔」というのは、何に対しての後悔だったのでしょうか?
リラ
がんの手術を受ける前、主治医の先生から、「リンパ節を取らない」「(生検のために)少し取る」「全部取る(リンパ節郭清)」という3つの選択肢を提示されました。手術前日の夜まで悩んだ結果、私は全部取ることを決めました。
それには、二つの理由がありました。一つは「転移していたらどうしよう」という恐怖心。二つ目は、主治医の先生の言葉です。先生は、「もし、自分の一番大切な人だったら、どうしますか」という私の質問に、「この状況であれば、全部取ることを勧めます」とおっしゃいました。それで私は決心したのですが、リンパ浮腫を発症したとたん、自分の決断を後悔するようになりました。
編集部
悩みに悩んで、大きな決断をされたのだと思います。でも、それ以上に、「リンパ浮腫と向き合って生きていかなければいけない」という現実は、リラさんにとって受け入れ難いものだったのでしょうね。
リラ
思い切ってリンパ節を全部取ったおかげで、転移していないことも分かったのですが、「だったら、手術しなくてもよかったのに…」という後悔がどんどん膨らんでいきました。
リンパ浮腫になり、治療院にいったとき、リンパドレナージや弾性ストッキングをすすめられましたが、それが「元の状態に戻るため」ではなく、「これ以上太くしないため」の手段だと知ったときは、本当にショックでした。「どんなに努力をしても、もう完全に元の状態には戻らない」という事実を受け入れることは、どうしてもできませんでした。
新しい自分へのきっかけ。「宝さがし」の始まり
編集部
その「どうしても受け入れられない」という心境に、変化が現れ始めたのはいつですか?
リラ
いまでも完全に受け入れられるようになったわけではないのですが、発症してからの5年間で、かなりうまく付き合えるようになってきた感じがします。
最初のころは、術後で皮膚の状態が安定していなかったこともあり、赤い斑点が出たり、炎症が原因で腫れたり、ちょっとしたことで、不安になって泣いていました。トラブルがあると、何が悪かったのか、何が間違っていたのか、いつも自分で自分を追い込み、責めていたように思います。
でも、「相談できる場所」や「相談できる友人」と出会えたことで、一人で悩むことが減り、リンパ浮腫ともより自然体で向き合えるようになりました。
編集部
一人で悩んでいたリラさんの心の拠り所となったのは、何だったのでしょうか?
リラ
がんの手術を終え、半年以上泣き続けた日々から這い上がるまでは、どん底の毎日でした。やっと立ち上がって進み出したら、リンパ浮腫との戦いが始まり、心も身体も不安定でしたね。
でも、親友に後押ししてもらいながら患者会に参加したり、その時自分に必要だと思う人や環境を探し求めました。そして、女性特有のがんを患った、同じ世代の、同じように大切なものを失った仲間たちと出会うことが出来たのです。それぞれに病気や悩みを抱えながらも、強く、優しく、逞しく生きている姿を見て、とても勇気づけられました。
また、定期的にお世話になっている治療院の存在も、コニュニティーを通して知ることが出来ました。安心して心と身体を委ねることができる先生との出会いにも、感謝しています。
編集部
同じ悩みを共有できる仲間の存在は、大きかったようですね。
リラ
”気持ちが分かり合える仲間を持つ“ことは”自分への癒し”に繋がります。一刻も早く笑顔だった自分に立ち直りたいと強く思い、泣きながらも行動して出会った仲間たちは、私の宝です。積極的に動くことは、私にとって「宝探し」で、「宝」を見つけるたびに、自分も強く、前向きになれた気がします。
リンパ浮腫の状態は、“心と体のバロメーター”
編集部
そんなリラさんがいま、リンパ浮腫と付き合っていくうえで、心がけていることはありますか?
リラ
決まったケアをただ続けるのではなく、日々の生活の中で、自分の心と向き合って、自分自身が心地よい、楽しいと思う選択をするように心がけています。
たとえば、塩辛いものを食べすぎてしまったり、お酒を飲み過ぎてしまったりしたとき、「こんなことしなければよかった」と後悔するのではなく、「でも、楽しかった」「美味しかった」と思うと、身体にマイナスの影響が少ない-。幸せな気持ちでいると、脚のむくみまで少ない気がするのです。
私は、リンパ浮腫の状態は、‟心と体のバロメーター”だと思っています。なので、自分の心を観察し、一日を振り返りながら、愛と感謝の気持ちでマッサージやストレッチをするようにしています。
編集部
ご自身の心と身体とじっくり対話しながら、ケアをされているのですね。
リラ
膝の後ろに水が溜まっているようなとき、時間をかけてマッサージしながら、「大丈夫だよ」「今日もありがとうね」と語りかけます。すると、翌朝、症状が軽くなっている気がするのです。リンパ浮腫の症状も、この脚の状態も、私が‟「生きる」を選んだ証”。だからこそ、リンパ浮腫になった自分も愛してあげたい-。5年の月日が経ち、いまようやく、そう思えるようになりました。
編集部
素敵な考え方ですね。過去の自分も受け止めたうえで、前に進もうとしているのが伝わってきます。
リラ
以前の私は、人に流されやすく、人任せだったり、人に答えを求めたりすることが多かったんです。そのため、後悔したり、誰かのせいにしてしまうことも。
でも、その考えではいつまでもそこに立ち止まってしまうことになり、現実は何も変わらない、と自分自身について冷静に振り返ってみたんです。「リンパ浮腫になったけれど、それを選択したのは自分」-。そう認められるようになってから、より自分の心に素直に生きられるようになりました。
行く場所や会う人を考えて、私なりのおしゃれを楽しむ
編集部
心の持ちようが重要である一方で、日常生活の中では、やはり不便を感じることも多いのではないでしょうか?
リラ
制服がある仕事なので、膝が出るスカートを毎日履いています。弾性ストッキングは厚く、透け感がないものが多く、制服に合わないため、脚を出すのにかなり抵抗がありました。
また、ストッキングの着脱に時間がかかるため、トイレは普通の人より時間がかかってしまいます。ゴム手袋をしてストッキングを上げるため「ザッザッ」という音が漏れてしまい、「ちょっと怪しい?」と気になることもありますね。
でも、リンパ浮腫のことは、親しい人以外には話していません。気軽に話せたらもっと楽なのかもしれませんが、やっぱり、隠していたい自分もいるんです。
編集部
そうした気持ちから、ふだんのファッションなども変わりましたか?
リラ
夏になると、水着も着たいし、短パンやビーチサンダルも履きたいとは思います。ですが、脚の太さに左右差がありますし、蚊に刺されて蜂窩織炎になるのもこわいので、肌を多く出すようなファッションは控えるようにしています。
ふだんも、ウエストと脚にうまくフィットするパンツが見つけられず、ロングスカートを履くことが増えましたね。でも、ファッションに季節の花の色を取り入れたり、服とアクセサリーを合わせてコーディネートしたり、行く場所や会う人のことを考えながら、私なりのおしゃれを楽しむようにしています。
そんな私を見て、姪っ子が、「脚、白くてきれい」「いま、長いスカートが流行っているもんね」「ほかにもいい所がたくさんあるんだから、悩むことなんてないよ」と、励ましてくれます。小さな応援団に、いつも背中を押されているんです。
「いい塩梅」を見つけることが大切
編集部
ファッション以外でも、リンパ浮腫になってから楽しまれていることはありますか?
リラ
趣味だったスポーツは、無理のない範囲で続けるようにしています。ダンスやエアロビクスのほか、月に2回、テニスのプライベートレッスンにも通っています。テニスのコーチは、リンパ浮腫について理解し、私の体調に合わせて進めてくれるので、安心して続けることができています。
また、農家さんから週に1度届く旬のお野菜を使った料理作りも楽しんでいます。イベントごとに畑に行って、芋堀りや玉ねぎの苗を植えたりもします。畑の活動を通して、自然の摂理を学び、大地の力を感じています。
母なる大地の力を感じることのできる畑との付き合いは、新しい楽しみの一つ。
編集部
スポーツを楽しめるようになるまで、時間はかかりましたか?
リラ
もともと身体を動かすことが大好きだっただけに、リンパ浮腫を発症した当初は、以前のように運動することができないことにと落ち込む毎日でした。でも、怖くても、少しずつチャレンジして、できる距離や時間を延ばしていく喜びは、格別なものがありました。山登りにまだチャレンジできていないので、今年はぜひ、低い山から挑戦したいと思っています。あと、いつか飛行機にも乗りたいなと思っています。
編集部
慣れないことに挑戦するのは、勇気がいることだと思いますが、リラさんのように、チャレンジを楽しむコツがあれば教えてください。
リラ
スポーツでも何でも、やり過ぎはよくありません。どのくらいが自分にとってちょうどいいのか、「いい塩梅」を見つけることが大切だと思っています。
たとえば、温泉は浮腫が悪化する可能性があると聞いても、最初から「温泉なんて無理」と決めつけず、3分、5分、10分と試してみると、自分が気持ちいいと思う時間がきっと見つかります。無理せず、諦めず、怖がらずに、自分の「いい塩梅」を探していると、できることが増えていったように思います。もちろん、温泉に入る前には、脚に傷や怪我、虫刺されなどがないことはきちんと確認しますが。
編集部
誰一人として同じ症状の人はいないように、自分にあったケアを見つけていくことが大切なのですね。そうした意味でも、「いい塩梅」はぴったりの表現だと思います。
リラ
マッサージなども、一から十まで習った通りの方法でなくていいと思うんです。自分が気持ちいいと思う方法でマッサージしてあげると、身体も喜んでいるように感じます。
お菓子作りが趣味なのですが、レシピ通りに作っても、必ずしも美味しいとは限らないですよね(笑)。最初はレシピ通り、でも、そこから砂糖を少しずつ足したり、減らしたりしていって、自分が一番美味しいと思う味に近づけていく。リンパ浮腫と暮らしていくなかでも、この作業が大事なのだと思っています。
「脚モデル」も新たな挑戦の一つ
編集部
リラさんは、encycloの脚モデルとして、イメージ写真や履き方動画にも登場されています。最初、このお話があったとき、どう思われましたか?
リラ
それまでモデルのような仕事をしたこともありませんでしたし、人に脚を見せることにも抵抗はありましたが、リンパ浮腫になってからの「宝探し」の中で見つけた大切な友人からの依頼だったので、挑戦してみようと思いました。
編集部
プロのモデルさんだと思っていらっしゃる方も多いのですが、実際のリンパ浮腫の患者さんの脚ということで、多くの反響もいただいています。
リラ
私の脚の写真を見てくださった方が、「これまでパンツばかりだったけれど、スカートを履いてもいいんだ!」というコメントをされているのを見て、とても嬉しかったです。思い切ってやらせていただいてよかったと思います。
いつか「これでよかった」と素直に言える日が来るように
編集部
今回、リラさんは「自分を見つめ直すきっかけになれば」とインタビューを受けてくださいました。リンパ浮腫発症から5年が経ち、率直な気持ちを教えてください。
リラ
いまだに不安はたくさんありますし、自分と誰かを比べて、羨ましく思ってしまうこともあります。自分で思っているほど、まだ強くなれていないのかもしれません。
編集部
強くなくても、リラさんの前向きな姿に、励まされる人は多いと思います。最後に、リンパ浮腫の仲間にメッセージをお願いできますか?
リラ
がん、そしてリンパ浮腫になって、多くのものを失いましたが、かけがえのない出会いがあったことも確かです。そうした経験を通し、私は自分が積極的に動くことが新しい扉を開け、前向きな思考が未来を作っていくと信じています。いつかきっと、「全部、これでよかったんだ」と思える日が来れば最高なのですが-。
まだまだ、試行錯誤の日々ですが、私がリンパ浮腫と生きてきた経験が、同じ病気で悩んでいる方を少しでも励ますことができたならば、とても幸せです。今回は、ありがとうございました。
ナチュラリストのリラさんらしく、全体を通して大きな愛を感じたインタビューでした。でも、そこに至るまでには、人知れず泣き続けた葛藤の日々もあったんですね。リンパ浮腫、そして自分自身と向き合うヒントが詰まったリラさんのお話、とても参考になりました! (編集部)
<文:Emily Nagaoka>