むくみにくい体のつくり方 ~産婦人科医YouTuber高橋怜奈先生と考える「むくみ」【前編】~


              むくみにくい体のつくり方 ~産婦人科医YouTuber高橋怜奈先生と考える「むくみ」【前編】~

「病院に行くほどではないけれど、なんとなく不調」 

…そんなプチ不調には「むくみ」が関係しているかもしれません。 

 本記事では、SNSを中心に女性のヘルスケアについての正しい情報を発信されている産婦人科医の高橋怜奈先生に、encyclo代表の水田がロングインタビュー。前編では、多くの女性が経験するむくみの原因と、むくみにくい体づくりの基本についてお話をお聞きしました。 

高橋 怜奈(たかはし れな)先生 


産婦人科専門医、医学博士、がん治療認定医。 渋谷文化村通りレディスクリニック院長。東邦大学医療センター大橋病院非常勤医師。産婦人科医YouTuber高橋怜奈として、YouTubeやTikTokで医療情報の発信を行う。

女性のむくみの原因は「ホルモン周期」「筋肉量不足」「静脈弁」 

水田: 

冷え、肩こり、頭痛、なんとなく重だるい、そういったプチ不調に悩まされている女性は私の周りにも多い印象です。弊社ブランドMAEÉ(マエエ)では、むくみケアが女性の心身の健康の維持に大きな可能性を秘めていると考えています。 

 

高橋先生: 

女性は、ホルモン変動に大きな影響を受けます。「むくみ」もその症状のひとつですから、むくみケアは女性の健康を考える時のカギのひとつだと言えますね。 

 排卵してから生理が始まるまでの「黄体期」という期間は、水分が体にとりこまれやすい時期なので、特にむくみやすい時期です。この時期には、むくみに体の水分が持っていかれて、例えば腸に水分が行かなくなって便が固くなって便秘になったり、というようなことも同時に起きたりします。 

 

▲「黄体期」は体が水分をため込む時期なので特にむくみやすくなります 

 

妊娠中は子宮がかなり大きくなって下半身の血流が悪くなり、むくみが起きやすくなりますし、一生の間、女性はいろいろな場面でホルモン周期の影響を受けてむくみやすいと言えます。 

 また、脚の筋肉量が不足していたりすると、ポンプ機能が働きにくくなりむくみやすいです。それに、血管の「静脈弁」という、脚の血液を押し上げる弁のはたらきも男性よりも弱いので、ホルモン周期に関係なくとも、筋肉量の不足や静脈弁の問題で女性は特にむくみやすいと言えます。 

 

 

むくみにくい体づくりは、「筋肉量を増やす」と「塩分・糖分を減らす」 

 

水田: 

筋肉量とむくみが関連するということは、運動習慣のある人はむくみにくいということですか? 

 

高橋先生: 

はい、運動習慣のある人、特にふくらはぎの筋肉がしっかりしている人は、明らかにむくみにくいと思います。私も元々とてもむくみやすい体質だったんですけど、ボクシングを始めてからむくみにくくなりました。 

私は、2016年にプロボクシングのライセンスを取りました。塩分もすごく好きだったんですけど(笑)、運動を始めたり食事の塩分も気を付けたりして、だいぶむくみにくい体質になったと思います。 

▲2016年にプロボクシングのライセンスを取得

 

水田: 

先生ご自身も、運動をするとむくみにくいことを体感されたんですね。むくみ改善にはふくらはぎの筋肉が大切とのことですが、おすすめの運動などありますか?  

  

高橋先生:  

私自身、最近はあまり運動ができていないのですが、歩くことはやめないようにしています。エレベーターではなくて階段を使うとか、ちょっとした距離だったらタクシーを使わずに歩くようにしています。脚の筋肉が無いまま高齢になると歩けなくなって認知症のリスクもグッと上がると言いますし、足腰は大切だと思っています。  

時間があればやりたいなと思っているのはスクワットです。余裕があるときは、髪を乾かしながらや歯みがきしながらスクワットするといいですよ、といろんな方におすすめしています。足が冷たいなと感じたとき、お風呂に入らなくてもスクワットすれば足が温かくなるんですよ。そういう根本的な温め方が大事なんですよね。なので、私も今日からまたスクワットやろうと思います(笑)。  

最近はテレワークの方が多いですけど、運動はスキマ時間にでもやったほうがいいです。血流がよくなることで、気持ち的にも前向きになれるんじゃないかなと思います。それに、ある程度太陽の光を浴びることで日内変動のリズムが作れて睡眠がとれやすくなったりもします。日中のどこかで、できれば朝イチでカーテンを開けて日を浴びて、数分でいいのでお散歩するっていうのが睡眠にもいいかなと思います。睡眠がとれなくなると太りやすくもなりますし、むくみの原因にもなったりするので。  

  

水田:  

全部つながってますね。やる気がみなぎってきました(笑)。  

  

高橋先生:  

私もです(笑)。また、運動だけではなく塩分量も大事です。 

最近、コンビニやスーパーなどで「サラダチキン」などが売っていて、ダイエットや筋トレをしている方も手軽に体によさそうな食事がとれますよね。でも、市販のチキンは塩分をかなり濃くしてあるんですよね。 

自分では健康的だと思っていても実は塩分をかなりとってしまっている現代人は多いんじゃないかなと思います。運動しているのにむくむ、という方は、お食事の内容も考えてみてほしいなと思いますね。 

 

水田: 

実は私、コンビニのサラダチキンを食べて健康になった気でいました(笑)。 

 

高橋先生: 

サラダチキンは、自家製で、薄味で作ればそれが一番いいと思うんです。市販のサラダチキンを食べたあとはやけにのどが渇いて水を飲みたくなるんですよね。市販のおにぎりも塩分は多いですし、成分表を見てみると意外と糖分(砂糖)を含んでいたりもします。糖分も塩分と同じく水を取り込んでむくみの原因になるので、適正な量をとることが大切です。 

 

水田: 

市販の食べものの成分表を見て驚くこと、私もよくあります。 先生は、ボクシングをはじめてからどのくらいでむくみにくさを実感しましたか?

 

 ▲リング上の高橋先生。かっこいいです! 

 

高橋先生: 

半年から一年ぐらいかなと思います。もちろん、毎日運動していれば常にむくんでいない状態になるんですけど、数日運動していなくてもむくまないな、と感じるようになったのは、ある程度筋肉ができてからです。半年ぐらいは経たないと筋肉が育ってこないので。下半身の筋肉からしっかり作るとすると、数日で結果が出るものではなく、ある程度、時間がかかります。時間はかかるんですけど、筋肉を作る、というのを一番にやってもらった方がいいのかなと思います。 

 よく女性誌などで、「むくみ予防で体を温める」みたいな記事がありますね。体を外側から温めるのは、一時的に血流をよくするという意味ではいいですが、効果は一時的なもの。一番の根本的な解決は、バランスのいい食事と運動だと思いますね。 

 

「お風呂で温める」の効果は一時的なもの 

 

水田: 

お風呂で温まっても寝る前には冷えてしまう、という方もいますよね。 

 

高橋先生: 

お風呂に入って体を温めて、血流をよくすることはいい習慣です。でも、一時的に体が温まっても、そもそも適切な筋量がなければ血流が体のすみずみまでいかないので、お風呂から上がって時間が経てば冷たくなってしまいます。ですからやはり、エネルギーをしっかりとって、糖質も適度にとったうえで「動く」、というのが、一番根本的に大事だと思います。糖質制限やファスティング(断食)なども流行っていますが、やはり栄養がとれていなければエネルギーを産生できません。エネルギーが足りないと、どんなに外側から体を温めようとしても冷えてしまうので、きちんとエネルギーをとって動くことが大事だと思います。 

 私自身、元々、起立性低血圧で血圧があがりづらく、よくふらふらしてしまっていたんですね。でも、その症状も、運動したり、朝食をきちんと食べるようにしたり、着圧ソックスを履いたりするようになって、かなり改善されました。

 

 

水田: 

「温め」って、自分では生み出せない熱産生の「補助」に過ぎないということですね。 

 

高橋先生: 

そうです。もちろん、寒い時に温めることは補助的な意味ではいいんですけど、その効果がずっと続くわけではなくて、数時間経てばやはり冷えてきてしまいますし。根本の解決がないと一時的な効果になってしまいますよね、温かいものを食べたり飲んだりすることも同じです。 

 

水田: 

女性の低体温が深刻だと聞きますね。 

 

高橋先生: 

そうですね。糖質制限している方とかエネルギー不足の方が多そうな印象です。SNSを見ていると「160cm 42kgの食生活はこう!」みたいなタイトルの動画があって、「え、大丈夫?」って心配になるんですよ。 

 

水田: 

「朝は白湯、昼はプロテイン入りヨーグルト」みたいな食生活ですよね。 

 

高橋先生: 

体が冷たそうだと思ってしまいます。本当によくないです。特に10代20代の、骨を作る年齢、女性ホルモンが必要とされている年齢ですと、閉経のリスク、骨粗しょう症のリスクもあります。「やせる」ではなくて、しなやかな筋肉のついた体型を作ることが大事かなと思いますね。とはいえ、若い時はそんなリスクはピンとこないですよね。私自身も中高生の頃は食べないダイエットをしていたこともあったので気持ちはわかるんですけど、産婦人科医になった今振り返ると、よくないことをしてきたなと反省しています。 

 

 

双子の妊娠と足のむくみ ~高橋先生の体験談~ 

 

水田: 

先生は今年双子のお子さんをご出産されましたが、妊娠中のむくみはいかがでしたか? 

 

高橋先生: 

とてもむくみました。むくみやすい体質ではあったのですが、やはり双子だというのもあって、よりむくみが強かったんじゃないかなと思います。 

臨月には赤ちゃんの体重が二人あわせて体重6キログラムぐらいだったので、お腹がとても大きくなりました。妊娠してお腹が大きいということは、大きくなった子宮で、足から心臓に行く血流がとどこおるということです。足がパンパンに膨らんで、靴が入らなくなりましたね。スニーカーの紐を一番外側まで広げて履いても痛い、みたいな状態です。これは大変だ!と、脚をもみほぐすフットマッサージャーを通販セールで買いました。気持ちよかったんですけど、効果は一時的なもので、マッサージが終わるとまたすぐむくんでいました。 

 

水田: 

産後はいかがでしたか? 

 

高橋先生: 

むくみは比較的すぐおさまるかと思っていたんですけど、2,3週間ぐらいずっとむくんだ状態が続きました。しかも、むくんだ箇所の皮膚がパツパツになってかゆくなってしまって、それを掻いて真っ赤になってしまうような状況にもなりました。最終的にはじんましんみたいなものがたくさん出て、むくみはつらいなと思いましたね。疲れもあってか、顔もむくんだりしていましたが、足のむくみがすごすぎて上半身はあまり気になりませんでした。 

マッサージ機のほかには着圧ソックスも履いていたんですけど、あまりにもむくんでいる状態だと圧迫されたところがかゆくなってしまって。ずっと使っていたソックスもかゆくなったりしたのですが、やはり履かないとつらいので、きつすぎない夜用の着圧ソックスをずっと履いていた記憶があります。 

 

水田: 

お食事なども工夫されたりしていましたか? 

 

高橋先生: 

食事は、塩分は控えるようにしていました。あとは、バナナ、アボカド、緑黄色野菜など、カリウムを多く含む食材は塩分排出効果や利尿作用もあるので、食べるようにしていましたね。カリウムが多い食事は生理前のむくみがひどい方にもアドバイスしますし、ボクシングの減量のときもよく取るようにしています。 

産後、むくみが完全に元に戻ったのは一カ月ぐらい経ってからです。産後そんなに急には戻らないことは産婦人科医として知識があったので、ある程度は想定範囲内でしたが、こんなに長引くんだ、とは思いましたね。むくみがあまりにも長引くので主治医から漢方薬を処方していただきましたが、私にはあまり効きませんでした。 

 

水田: 

人によって合うもの、合わないものは違いますもんね。 これから妊娠出産を控えている方へのアドバイスなどはありますか? 

 

高橋先生: 

私自身は尿蛋白も出ず血圧も問題なく、妊娠によるホルモンの影響やお腹が大きいことが原因のむくみだったのですが、人によっては実は妊娠高血圧などの原因によるむくみの可能性があります。ですので、急にむくみが強くなった場合には、まずは自分で対処しようとせずに医師に相談してもらいたいと思います。そのうえで、特に大きな問題が無いようであれば着圧ソックスを履いたり、温かいお風呂に入ったり、運動することに制限がなければ軽い運動をしたりして筋力をつけておくほうが、出産や産後の生活にもいいと思います。 

 

インタビューは、後編「『むくみ』と『なんとなく不調』はリンクする」に続きます 。 


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