むくみ専門医に聞く 水太りってなんですか?~原因や解消法・予防法を解説~


              むくみ専門医に聞く 水太りってなんですか?~原因や解消法・予防法を解説~

「水太り」という言葉を聞いたことのある方は多いかもしれません。 でも「水太り」の正体は一体なんなのか、知らない方も多いのではないでしょうか。

この記事では、「水太り」の原因や解消法、そして「太る」との関係について、亀田総合病院/亀田京橋クリニック リンパ浮腫センター センター長の林明辰先生に解説していただきます。 

林 明辰(はやし あきたつ)先生 

リンパ浮腫(ふしゅ)治療の第一人者として、診断・手術に用いる最先端のリンパ管イメージング技術を世界で初めて発表。「教えて!林先生」シリーズでは、数多くのリンパ浮腫患者さんの治療を通して、一般の方のむくみのお悩みに寄り添うアドバイスをいただきます。週3日のランニングがルーティーン。好きな食べ物は納豆卵かけご飯。趣味はLEGO。亀田総合病院/亀田京橋クリニック リンパ浮腫センター センター長

水太りは「慢性的なむくみ」

― 先生、水太りとはどういうことですか。

「水太り」は、体の中の水分量が増えて慢性的にむくみ、体のラインが崩れたり体重が増えたりしている状態です。

「水太り」という言葉から、水を飲みすぎてむくんでいる、といったイメージを持つ方もいるかもしれませんが、それは誤解です。飲んだ水の量が体にとって必要な量の範囲内であれば、また、内臓機能(心臓、腎臓や肝臓など)に異常がなければ、水を多めに飲んだとしてもむくむことはありません。

「むくみ」とは、体内に余分な水分がとどこおり、皮膚の下にたまった状態です。体内の水分は本来、体中に張りめぐらされた血管やリンパ管で吸収されます。しかし、血管やリンパ管で吸収される水分が減ると「むくみ」になってしまうのです 

「水太り」と「肥満」はどう違う?

― 「水太り」は「肥満」とは違うのでしょうか 。

「肥満」は「脂肪が付く」状態ですので、「水太り」と「肥満」は違いますね。どちらの場合も体重が増えることには変わりませんが、水太りでは脂肪ではなく体内の水分が増えます 

むくんでいるのか脂肪がついたのかを見分けるには、足首を親指の腹で5秒ぐらい押してみてください。押したところが指の形にボコンとへこんでしばらく元に戻らないようであれば、それは脂肪ではなくて「むくみ」です。

 

水太りを放置すると脂肪が大きくなりやすくなる 

― 水太りを放置すると太ると聞いたことがあるのですが 。

むくみがそのまま脂肪になることはありません。しかし、むくむとリンパ管から「脂肪酸」という成分が流れ出て、脂肪細胞を大きくしてしまうことがわかっています。

また、 水太りの方は、摂取した水分が体の中に停滞して、老廃物を汗や尿として体の外に出す「水分代謝」がうまくいっていない状態です。水分代謝が悪いと体重が増えやすく、体重が増えるとむくみやすい、という悪循環になりやすくなることも事実です。 

 

「水太りしやすい人」はこんな人 

  水太りの原因は何ですか? 

水太りの大きな原因は、体の浸透圧のバランスの崩れです。このバランスの崩れは、さまざまな生活習慣から起こります。 

水分不足 

水分を一度にとり過ぎるとむくみやすくなりますが、実は水分不足も水太りの原因になります。体内の水分量が不足すると、体は水分をため込みやすくなり、むくんでしまいます。急激に体重を落とすダイエットもむくみの原因になります。 

・塩分の多い食事 

塩分の多い食事をとると、体内の塩分濃度を薄めるために体が水分をためこみやすくなります。外食が続いていたり、加工食品を多く食べたりする方は塩分過多が気になります。また、アルコールを飲む際も塩味の多い味付けになりがちなので注意が必要です。 

・長時間の同じ姿勢 

長時間の立ち仕事、デスクワークでの座りっぱなしなどはむくみの大きな原因です。長時間同じ姿勢でいることで、下半身の血液やリンパを循環させるふくらはぎの筋肉が機能しにくくなり、とくに脚がむくみやすくなります。 

・運動不足 

ヒトは、体(特に四肢)の筋肉を動かすことで、体液の循環をうながします。そのため、筋肉量が減ると体液の循環が悪くなります。運動不足で筋肉が落ちている方は水太りしやすいと言えるでしょう。 

・ホルモンバランスの変化 

妊娠、出産や月経周期による女性ホルモンの変化も水太りのに影響を及ぼします。

・睡眠不足・ストレス 

睡眠時間が不足したりストレスが多くなったりすると、自律神経の乱れから心臓機能が低下しやすくなります。心臓機能が低下すると血流が悪くなり、血液中の水分や老廃物がたまりやすくなってむくみの原因となります。 

上記以外に、慢性的にむくみやすい方がいらっしゃいます。実は、血管やリンパ管の太さや本数には個人差があります。生まれつき血管やリンパ管の本数が少ない方細い方、また、血管内にある弁の機能が弱い方は、リンパの流れや血行が悪くなりやすいため、冷え性やむくみを起こしやすい、という報告もあります。 

― なるほど、生活習慣の他に、個人差もあるわけですね。ところで、男性は水太りしないのですか? 

男性は女性と比較して筋肉量が多いので、水太りはしにくいですね。ただ、最近はむくみを感じる男性の数が増えている傾向があります。男性向けの着圧ソックスなども売られていますよね。これは、特にコロナ禍以降、在宅でのデスクワークの時間が増え、脚の筋肉を動かすことが減っているのが原因のひとつと考えられます。

また、男性向けのビジネスシューズ、特に、かっちりしたつくりで足首が動きにくいタイプのものはむくみを引き起こしやすいので、「立ちっぱなし」「座りっぱなし」の時間が長い方は注意が必要です。

 

「水太り」の解消法と予防法 

― では、水太りはどう解消すればよいでしょうか。 

水太りの効果的なケアの基本はズバリ、「血液やリンパ液の流れる量を増やして動かす」ことです。こまめな水分補給をすること、ストレッチなどの軽い運動をすること、また、リンパを流すようなやさしいマッサージをおこなうのがよいでしょう。入浴、特に半身浴もおすすめです。 体を温めることで血行が促進し、水圧で下半身を圧迫することで、下半身の血液やリンパ液が心臓に戻りやすくなり水太りの解消効果が期待できます。

※むくみの多くは生活習慣などによるものです。ただし、急なむくみ、何日も治らない慢性的なむくみ、尿の量が減る、動悸・息切れがする、といった症状を伴う場合は病気などの原因がある可能性があります。上記のような場合は医療機関へのご相談をおすすめします。

 

― 水太りを予防する方法はありますか 

日常生活に無理なく続ける方法がいくつかあります。 

水太り、特に脚のむくみが気になるようなら弾性ストッキング・ソックスの着用が手軽です。寝る前や就寝中に履くタイプの着圧ソックスを使ったことのある方もいらっしゃるかと思いますが、実はむくみ予防は日中におこなうことが効果的なんです。医療用弾性ストッキングやソックスは、体の末端から中心に向けて段階的に圧迫を加え、血行やリンパの流れをうながし、むくみを予防・改善することができます。 

むくみの根本的な予防には、食事の塩分を減らすことがおすすめです。

外食が続いたり、加工食品を多く食べると塩分過多になりがちですので、できるだけ塩分控えめのメニューを意識するようにしましょう。

成人女性(49歳以下)の1日の塩分摂取量は6.5g未満が目安(※)とされていますが、この目安量は一般的なラーメン一杯を食べると軽くオーバーしてしまいます。水太りの予防、そして解消には、想像以上に薄味を意識することが大切だといえるでしょう。もちろん、食事すべてを薄味にしてしまうと味気なくなってしまうので、しっかり味のついた一品とごく薄味のおかずを二種類、など、メリハリをつけた食事がおすすめです。 

※厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2020年版)

また、エレベーターではなく階段を使う、など、ちょっとした運動習慣をつけて筋肉をつけることも水太りの予防、解消に役立つでしょう。 

 ― 水太りは、なる前の予防が大切だということがよくわかりました。体のラインが崩れたり体重が増えたりしてからあわてるのではなく、日々の生活習慣をほんの少し改善して、スッキリ軽やかな毎日を過ごせるといいですね。本日はありがとうございました! 

 


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