リンパ浮腫・むくみを防ぐ!日常的なセルフケアのポイント


              リンパ浮腫・むくみを防ぐ!日常的なセルフケアのポイント

「がんを経験した後も、こうありたいと思う自分を実現したい」そんな思いを持っている方はたくさんいらっしゃいます。

2023930日に「がん経験者のためのビューティーケアフォーラム」が開催されました。フォーラムでは、「リンパ浮腫・むくみを防ぐ!日常的なセルフケアのポイント」と題して、むくみケアの専門家である林明辰先生(形成外科医)と金子真紀代先生(理学療法士)、そして、子宮頸がん・リンパ浮腫経験者である株式会社encyclo代表取締役の水田悠子がトークイベントをおこないました。

この記事では、乳がん術後リハビリ&セルフケアスタジオ「〝to be〟(トゥー・ビー)」主宰の理学療法士、金子真紀代先生がお話くださった、リンパ浮腫・むくみを防ぐための日常的なセルフケアについてご紹介します。

金子 真紀代(かねこ まきよ)先生 


理学療法士。リンパ浮腫セラピスト。

乳がん術後リハビリ&セルフケア〝to be〟主宰。手術後のつっぱりや違和感、運動機能障害などさまざまな症状の緩和、再発予防を目的に、日常生活の中で無理なく行えるセルフケア、運動習慣の獲得を目指したセルフリハビリを指導。亀田京橋クリニックリンパ浮腫センター非常勤。

リンパ浮腫を疑ったらまず主治医へ相談

― 乳がんの手術後しばらくしてから腕のだるさが気になったり、婦人科がんの手術後に足がむくんだりなど、リンパ浮腫かもしれないと気づいたら誰に相談すればよいですか。

金子先生:まずは、主治医に相談しましょう。 その上で、リンパ浮腫外来などの専門家がいる医療施設にかかりましょう。ご自分で探す場合は、2つの方法があります。

方法1 近くの病院で「リンパ浮腫外来」があるかを確認する

リンパ浮腫外来という名称で立ち上げている病院もあれば、診療科(乳腺、婦人科、形成外科など)にて対応されているところもあります。まずは、どの診療科で対応しているか確認しましょう。

方法2 がん相談支援センターに相談する

お住まいの地域のがん相談支援センターにお尋ねになってみてください。がん相談支援センターはがん診療連携拠点病院やがん診療病院に設置されており、看護師やソーシャルワーカーなどが対面や電話で相談にのってくれます。リンパ浮腫外来のある医療機関がわかったら、その医療機関に通っていない患者でも対応してくれるかなどもあらかじめ確認するといいでしょう。

また、弾性着衣を扱っているメーカーさんに問い合わせてみるのもいいでしょう。居住地に近いリンパ浮腫外来、セラピストの有無、リンパ浮腫ケアをしている治療院などのさまざまな具的な情報が得られるかと思います。

 

リンパドレナージは短時間でも毎日続けて

― リンパドレナージはどのくらいの頻度でおこなえばいいですか。

金子先生:リンパドレナージの目的は、日々の観察とリンパ管の側副路を作ることです。一度で効果が出るものではないので、短時間でも毎日続けることが大切です。ウェブサイトやYouTubeなどで具体的な方法の動画を公開されているセラピストもいますので、参考にするのもよいかと思います。

ドレナージの大切なルールは2つあります。

ルール1 手首から指先までを使って面で触ること

腕や脚をマッサージする際、つい指先だけで触ってしまいがちです。大切なことは、指先から手首までをしっかり腕や脚に密着させてドレナージすることです。

▲リンパを流すときは、指先だけでなく指先から手首までを肌に密着させて

ルール2 ドレナージする際の目的地のリンパ節を知ること

がんの手術でリンパ節郭清をおこなった方が発症する可能性のあるリンパ浮腫は、そけい部または脇の下のリンパ節周辺のリンパ液の流れがとどこおっていることが根本的な原因です。

 むくみの液を排出するための「リンパドレナージ」には、リンパを流し入れる「目的地」があります。「目的地」は、手術で切除したリンパ節の近隣にある、健康なリンパ節です。

例えば、片側のリンパ節を切除した上肢リンパ浮腫の場合、反対側の腋窩リンパ節と、同じ側のそけいリンパ節がドレナージの目的地です。また、下肢リンパ浮腫の場合は同じ側の腋窩リンパ節がドレナージの目的地です。

▲脇の下の「腋窩リンパ節」や脚のつけねの「そけいリンパ節」(緑色の点)のうち、切除したリンパ節に近い健康なリンパ節が「目的地」になります

 

【参考】静岡県立がんセンター動画

「シンプルリンパドレナージの実際 上肢(腕)編」

「シンプルリンパドレナージの実際 下肢(あし)編」

 

セルフドレナージは、日常生活動作の中に取り組めると無理なく負担なくおこなえて理想的です。例えば、お風呂の中で体を洗う際、ボディーソープやせっけんの泡が体についた状態でドレナージの手順で体を洗えば生活の一部として無理なく取り組むことができます。

また、腕や脚から流れたリンパは四肢のつけね(脇の下、そけい部や腹部)にたまりがちで、その部分での浮腫の悪化、繊維化を促進してしまいます。浮腫の悪化や繊維化を避けるため、腕や脚のつけねから体幹のケアもおこなっていきましょう。

弾性ストッキングやスリーブ購入は専門セラピストに相談するのがおすすめ

― 医療用弾性ストッキングはどこで買うのがよいですか。

金子先生:医療用弾性ストッキングは、リンパ浮腫外来のある病院やクリニック、また、リンパケアをおこなっている治療院で採寸して購入可能です。私たちセラピストは採寸だけでなく、おひとりおひとりの皮膚の状態や今までの経過などを評価して、まずはきちんと自分で着脱して継続して使っていただけるもの、そして一番効果が期待できるものを選んでいます。

患者さんが自分で選択すると、結局色々買ったものの自分に合うものが見つからなかったり、余計にむくみを悪化させたり、とトラブルになる可能性もあります。まずは専門家に相談し、適切なサイズ・圧力・スタイルを決めてもらいましょう。

― セラピストにはどんな相談に乗ってもらえるのですか。

金子先生:その人に合った弾性着衣を選んでもらえるだけでなく、装着方法、お洗濯方法などお手入れ方法も教えてもらえます。また手首や指先に症状のある方も多いのですが、着脱に痛みをともなう方には着脱を手助けするような自助具の紹介や着脱時の一工夫が教えてもらえたりもします。そういった知識を教えてもらえるだけでも、日常生活のでの負担が違ってきますので、ぜひセラピストに相談してみることをおすすめします。

 

弾性ストッキングや弾性スリーブを保険適用する際の注意

― 弾性ストッキングや弾性スリーブは保険適用になりました。

金子先生:はい、20084月からリンパ浮腫治療のための弾性着衣の購入が保険適用になり、購入費用が療養費として支給されるようになりました*。

*2020年4月からは、慢性静脈不全による難治性潰瘍治療のための弾性着衣等(弾性ストッキング及び弾性包帯)に係る療養費の支給も開始されています。リンパ浮腫治療を目的とする場合とは支給要件が異なりますのでご注意ください。

 ただし、注意点があります。

保険を申請する場合、医師の「弾性着衣装着指示書」が必要になります。いくつか条件がありますが、その中の一つに、「『着圧指示』が30mmHg未満の場合は、装着が必要な理由を「特記事項」欄に記載することが必要」とあります。

例えば、症状に合わせて「クラス1」を選んだ場合、あるいは、夜間に履く弾性ストッキングや弾性スリーブなどを選んだ場合は30mmHg未満の弱圧になるため、指示書の特記事項の欄にその理由が記載されていないと申請が通らなくなります。主治医と相談して、記載に不備の無いようにしたいですね。

▶「MAEÉ弾性ストッキングご購入ガイド」※ページ後半で療養費支給対象の要件について詳しく説明しています

リンパ浮腫になっても仕事、運動、旅行を楽しめます

― リンパ浮腫になった後、お仕事や運動、旅行は制限されますか。

金子先生:日常生活に支障きたす症状をお持ちの方はご相談が必要になるかと思いますが、基本的には制限なく色々なことに挑戦して楽しんでいただけます。ただしすでにリンパ浮腫が発症してリンパ管の機能障害が生じているわけですから、関わり方によっては悪化させてしまう可能性もあります。まずは正しい知識を持って意識して取り組む必要があります。

取り組み方には3つのポイントがあります。

ポイント1 段階的にすすめること

お仕事への復帰、また、運動や旅行の準備として生活全体の活動量を上げていくことが大切です。

ポイント2 リンパ浮腫を悪化させるリスクを防ぐ工夫をすること

例えば座りっぱなしのデスクワークが原因で足のむくみがある方は机の下に台を置いて時々高い位置に置いて仕事をする、会社内での移動をエレベーターから階段の昇り降りに切り替える、休憩時間にしゃがみ込んで爪先立ちをする、リンパは足の裏にも溜まりやすいので青竹踏みをおこなう、などの工夫です。

ポイント3 観察とアフターフォロー

いつもと違った運動や仕事、遠方へ旅行した際はその前後の様子を観察しましょう。アフターフォローは、ドレナージにこだわりすぎず、圧迫下で大きな関節を使ってストレッチや筋トレすることもセルフケアになります

例えば、肩まわりや股関節まわりの大きな関節を動かすことには大きなメリットがあります。肩回しの際に手のひらを脇の下、親指が腕のつけねにくるように当てて肘を曲げながら、肘で円を描くように大きく回してみましょう。乳がんの手術後、つっぱりを感じやすい大胸筋を圧迫しながら動かすことで自然と筋肉が緩んでいきます。たったこれだけでも、やった後に腕を上げてみると、腕が軽く上がる実感があると思います。

▲手のひらが脇の下、親指が腕のつけねにくるように当てて肩回し

また、もし新たにスポーツを始めるなら、患肢に負担をかけず安全に始めるためにも、指導者のもとフォームをきちんと学ぶことをおすすめします。正しいフォームを維持することは、患肢への負担を軽減するだけでなく筋肉や関節にかかる負担を適切に分散して怪我のリスクも軽減します。愉しみながら効率よく技術を向上させるためにも、まずは専門家にご相談してみましょう!

 

家事・育児・介護でリンパ浮腫を悪化させないための2つの考え方

― 家事や育児、介護をしている中で、リンパ浮腫を悪化させない方法はありますか。

金子先生:リンパ浮腫を悪化させないための大きく分けて2つの考え方があります。

考え方1 リンパ浮腫が生じている腕や脚への負担を減らす

ひとつは部分的に捉える考え方。リンパ浮腫が生じている腕や脚への負担を減らすためにできることです。

具体的には、

弾性着衣の着用とスキンケア ② 介護や育児動作を手先だけでおこなわない

といった工夫ですね。

私はよく皆さんに、家事タイムはリンパを流すチャンスですよ、とお伝えしています。圧迫しながら運動すると、筋肉の動きと外からの圧迫によるポンプ作用でリンパ液・静脈血が効率よく流れます。家事も運動の1つ!リンパを流すチャンスだと考えれば、家事のモチベーションもあがりますね。

また、家事や介護をする際、動作を手先だけでなく体全体でおこなうことも大切です。

例えば、ご自宅で介護をする場合。介助者の腕や脚に負担がかかる介助動作として起き上がり動作、トイレでの立ち上がり補助、入浴介助などがあります。どれも前屈みで手の力だけでおこないたくなりますが、足と足の間を広げ、重心を低くする基本姿勢を取り入れ、そこから体を近づけながら重心移動を使っておこなうと、手や脚、腰への負担は軽くなります。体の使い方を利用していきましょう。

▲トイレなどでの立ち上がり補助の際は、介助する方が重心を低くして体全体で動作をおこないましょう

また、赤ちゃんを抱いたり、荷物を持ったりするときには、布が一枚あるだけで体への負担は違ってきます。

▲タオルを当てて赤ちゃんを抱っこすると腕への負担が軽くなります

 

▲かばんを持つときもハンカチやタオルで持ち手を包むと手指への負担が減ります

考え方2 「むくまない体づくり」

ふたつめは、全体的に捉える考え方。これは「むくまない体づくり」をすることです。

①休息と睡眠時間の確保

育児や介護にプラスして家事、一般的な「仕事」とは異なり、休みがあるわけでもなく、日々同じことが繰り返し続いていきます。夜間の対応が続く場合には、睡眠不足で自律神経が乱れてむくみやすくもなります。そうならないためにも、意識して休息と質の高い睡眠を心がけていきましょう。

②ストレッチとウォーキング

育児や介護は前屈みの姿勢が多いので、できるだけ伸ばす方向を意識しながら、大きい関節そして背骨をゆっくり大きくストレッチしましょう。

また、心と体をリセットするためにも早歩きをおすすめします。わざわざウォーキングの時間を取るのが難しくても、お買い物や移動時などを利用してみましょう。自律神経が整って睡眠の質の改善も期待できます。また疲れにくい体づくりにも役立ちます。

 

リンパ浮腫と付き合いながら、自分らしく

金子先生が話されたとおり、リンパ浮腫になっても、仕事、運動、旅行など、基本的には制限なくいろいろなことに挑戦することができます。

リンパ浮腫と付き合いながら自分らしく楽しみを見つけていくためには、セルフケアと毎日の生活の工夫がカギとなるでしょう。

「セルフケアは、実はドレナージだけではなくて、ストレッチや筋トレ、有酸素運動も含まれるんですよ」と金子先生。「ドレナージだけにこだわって、忙しい中で毎朝毎晩時間をかけるというよりは、きちんと圧迫した状態で外に出て歩いた方がケアの実感が持てるかもしれませんよ」とアドバイスをいただきました。

ご自身のライフスタイルに合ったケアを取り入れて、自分らしい毎日を送るヒントが見つかることを願っています。

▶金子先生が主催される「乳がん術後リハビリ&セルフケアスタジオ 〝to be〟はこちら

 


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